西野亮廣のエンタメsalon

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2020年12月30日のエンタメ研究所の過去記事

12月30日(水) ※1月1日以降は『いいね』を押さないでくださいね。
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おはようございます。
「レモン1000個分のビタミン!」とか「レモン3000個分のビタミン!」というコピーを見るたびに、自分の中でのレモンの評価が下がっていくキングコング西野です。
さて。
今日は『客席をデザインする』というテーマでお話ししたいと思います。
全ての接客業に関係ある話です。
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▼ ステージ上の決定権を持っているお客さんをハックしよう!
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NYのブロードウェイの劇場を通う度に、「アクターもプロだけど、お客さんもプロ」ということを思いしらされます。
これは数年前に話したことがありますが(※新しくサロンに入って来られた方もいるので、あらためて…)、全身青色のパフォーマンスグループ『ブルーマン』のショーなんて、特にブロードウェイと日本で、その差が出ます。
乱暴に分けると…
・日本のお客さんの基本スタンス=「楽しませてください」
・ブロードウェイのお客さんの基本スタンス=「楽しむぞ」
です。
明らかに客席の熱(前のめり感)が違っていて、客席のそれに引っ張られる形で、パフォーマーのパフォーマンスが違ってくる。
パフォーマーは「プロ」とはいえ、「人」なので、そこには“感情によるブレ”があるんですね。
で、すんごく当たり前の話なのですが、お客さんが自分の満足度を上げたければ、パフォーマーをのせた方が(イイ気にさせた方が)絶対にイイ。
その時に大切なのは、その部分をお客さんに丸投げするのではなくて、「我々(お客さん)が、パフォーマーをのせた方が、パフォーマーがより良いパフォーマンスをして、我々の満足度が上がるよね」と、お客さんが“思いつくように”客席をデザインするということ。
「どういう空間を作れば、お客さんが『パフォーマーをのせた方が巡り巡って自分達が得をする』と考え始めるだろう?」ということを徹底的に考えることが大事で、そこをミリ単位で設計したのが『天才万博』です。
あのイベントの裏では、「どうもありがとうございました」の後、エンディングの音が出るタイミングが0.5秒でも遅れればブチギレ案件なんです(笑)
たとえば『拍手』一つとってもそう。
『拍手』は客席から自然発生するのを待つのではなくて、お客さんに「拍手しよう!」と“思いついてもらうこと”が大事で、それには照明や音響のボリュームやタイミングが大きく関係してくる。
もちろん、照明や音響だけではありません。
たとえば結婚式で、余興や挨拶が終わる手前に「シャンパンのおかわり」を何も考えずに運ばれたりしますが、あれはいけません。
お客さんがグラスを手にしてしまうと(物理的に手を叩けなくなるので)拍手の量が減ってしまうからです。
拍手の量が減ると、パフォーマーのパフォーマンスが下がります。
ウェイター(ウェイトレス)は、配膳のタイミングがパフォーマーのパフォーマンスを司っていることを自覚しなくちゃいけない。
デザインしなきゃいけないのはステージの上だけではなくて、同じ熱量で、客席もデザインしなくちゃいけません。
さて。
「客席をデザイン」といっても、僕は、『開場前』と『開場後』で分けるべきだと考えます。
つまり、「客席のデザインは当日(本番)が始まってからだけではなくて、当日を迎える前から始まっている」という話です。
日本のブルーマンが“やや”上滑りしているのは(#口が悪い)、開場前(当日を迎えるまで)のデザインを怠っているから、その正体が何かというと『文化』です。
「ブルーマンは“前のめりのお客さん”を歓迎していて、大きなリアクションをとっても、浮いて恥をかくことはないよ」ということを、丁寧に訴求しなくちゃいけなくて(※ブロードウェイはこの文化が確立しているよね)、それが難しいなら……僕ならば、会場ロビーで流すBGMの音量を上げておいて、会話の声が大きくなるように仕掛け、お客さんの喉を開いておく(声が出やすい状態に整えておく)でしょう。
逆に、飛沫を防ぎたい飲食店さんなんかは、店内のBGMのボリュームを下げて、ローテンポの曲を照らんで、照明をいつもより暗くするか、究極はロウソクに変えれば、お客さんは「声を押さえよう」と“思いつくの”で、大声の量が減り、飛沫が減ります。
…みたいな感じで、客席から丁寧にデザインすることが大事だと思います。
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▼ 映画はどうだ?
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自分達が仕掛けているイベントと、映画が、大きく違うのは、映画は「上映前&上映後の演出ができない」という点です。
映画は各劇場さんに作品をお渡しして「流してもらっている」という形なので、上映前&上映後の演出は各劇場さんのルールでまわっています。
映画館では基本的には、無音で席に着き、無音で退室で、そこに盛り上げる演出などは挟まれません。
『映画 えんとつ町のプペル』を届ける日々の中、この条件下で、どう、客席を良い感じにデザインできるのだろうか?と考えるわけですが……昨日、何気なしに、SNSで呼び掛けて、お客さんと一緒に映画館に行ったんです。
確信めいたものがあったわけではなく、「こんなことをしたら、どうなるのかなぁ?」といった感じで。。
その結果……メチャクチャ楽しかったんです。
それが、もう、本当にっ!
そして、帰り道、「なぜ、楽しかったのか?」を考えるわけです。
だって、上映前&上映後の演出があったわけじゃないし、お客さんのリアクションをがどうであろうが、パフォーマー(映像)のパフォーマンスは変わらないわけじゃないですか?
いろんな要因を考えてみたのですが、おそらく、「作品を認めている者同士で観ている安心感」がそうさせたのだと思います。
本来、『映画館』という場所には、いろんな思惑を持った、いろんな人が集まってくるわけですが、昨日の夜(21時45分~)の上映には、プペルが好きで、作品のクオリティーを信じている人達が集まっていて、皆、声には出さないまでも「ね、分かってるよね?」という感じで、心の中で手を握っていたんです。
それが顕著に出たのが、エンドロールだったのですが、エンドロールの終わりかけの時に、一人のお客さんが席を立って、劇場を出ていかれる時に、深々とお辞儀をされたんです。
暗くて顔は確認できなかったのですが、皆、その人が「西野」だと思って、まもなく会場から拍手が起きたのですが、エンドロールが終わって、劇場が明るくなると、客席に「西野」がいるんです。
その瞬間、「だったら、さっきの人は誰なんだよw」と全員が思って、その直後に「それより何より、なんで深々とお辞儀をしたんだよwwあのお辞儀は『作った人』の感じだろww」ということを皆が思ったのですが、見渡すと全員ニヤニヤしていて、そこには一粒のネガティブも落ちてなかったんですね。
以前、ブロードウェイで『STOMP』を観たときに、どういうわけか、前の方の席がゴッソリと空いていて、開演前にスタッフが「指定席になっておりますが、子供に限り自由席です」とアナウンスして、まもなく前の席は子供で埋まりました。
自分よりも後にチケットを取ったお客さんが、自分よりも良い席に座ってしまったのですが、「…でも、子供だしイイよね」と全員が思って、全員がニヤニヤしていました。
その時に、「おかしいじゃないか!俺の方が違うぞ!」という人が1人でもいたら、あの多幸感は生まれなかった。
「子供は贔屓しましょう」という文化を持った者同士で集まっていたら、あの多幸感が生まれたのだと思います。
「同じ文化の人間同士と観に行く」というのは、映画を面白くする為の一つの演出だなぁと思いつつ、一方で、それが過ぎると次は排除の力学が働いてしまうので(いちげんさんが参加しづらい)、バランスを見ながら、やっていこうと思いました。
今夜はTOHOシネマズ六本木ヒルズの21時45分の回を観に行きます。
感染症対策で、写真を撮ったり、サインをしたり、握手をしたりすることはできませんが、「作品を認めている者同士で観ている安心感」を経験してみたい方は、是非、ご参加ください。
これ、映画に限らず、結構な場面で転用できそうだなぁと思っております。
現場からは以上でーす。
【追伸】
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