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2021年01月11日のエンタメ研究所の過去記事

1月11日(月) ※1月13日以降は『いいね』を押さないでください。
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おはようございます。
動物界では「アナコンダ」が最強だと思っていたのですが、よくよく考えると「ゾウ」を相手にしてしまうと、絞め殺すには尺(身体の長さ)が足りず、ただただゾウに「添い寝」した感じになっちゃうなぁと思ったキングコング西野です。
さて。
今日はクリエイティブについての本音と戦略を語りたいと思います。
他所で語ってしまうと怖い人だと思われるので、ここだけの話にしてね!
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▼ ストーリーメイカーとして
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僕は、デビューまもなく「後藤ひろひと」と出会い、よく呑みに行っては、脚本の話を朝まで延々と交わしていました。
後藤さんは、演劇界では知らない人はいない劇作家で、代表作に『人間風車』、『ダブリンの鐘つきカビ人間』、後に、『パコと魔法の絵本』として映画化された『MIDSUMMER CAROL ガマ王子 vs ザリガニ魔人』があります。
こうして、代表作のタイトルを並べるだけでも、西野亮廣のルーツが見えてきますね(^o^)
芸能活動のスタート地に面倒を見てくださった先輩が、“理詰めの鬼”であるロザンの菅さんと、劇作家の後藤さんで………そりゃ、『キンコン西野』が発生する環境です。
その後、ミヒャエル・エンデにハマり、ビリーワイルダーにハマり、三谷幸喜にハマり、エルンスト・ルビッチにハマり、立川志の輔にハマるわけですが、いつも僕の胸を踊らせてくれたのはストーリーメイカー達でした。
それはそのまま自分の時間割りにも反映されていて、僕が人生の時間の大半を捧げているのは「ストーリー作り」です。
ストーリーメイカー1年目の頃の僕は「この衝撃の展開を見よ!」「この裏切りは予測できなかったろ?」といった感じでドヤ作品を発表していました。
しかし、作品数を重ねる度に「ギミック」でお客さん(コアファン)の満足度を獲得することがいかに簡単で、“誰でも書けそうな普遍的な物語”を世の中に残すことがどれだけ難しいかを知ります。
「電球」という発明に対して、「それ、俺も思いついてたよ」というのはすっごく簡単なのですが、誰でも思いついたことを形にするのはベラボーに難しいです。
それはつまり、“誰でも思いついているのに、誰も形にできなかった”ということなので。
脚本も同じく、「誰でも書けそうなのに、誰にも書けない脚本」が一番難しいです。
えんとつ町のプペル』は、「【輝く星がありました】がオチとなる感動物語を書きなさい」という問題です。
この問題は誰でも挑戦できますが、解くのはトップレベルに難しいです。
そして、「感動物語を書けばいい」というだけではありません。
この問いの答えを「普遍的なもの」にするには、「全ての層」を押さえなくてはいけません。
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▼ 全ての層?
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自分の作品を解説するのは野暮ですが……
たとえば、屋根の上にのってしまった帽子を(高所恐怖症の)ルビッチが取りに行くシーンがあります。
屋根にかかったハシゴの下では、父と母がルビッチを見守ります。
このシーンでは「3つの層」にアプローチをかけています。
①「ストーリー」として見る人。
②「脚本」目線で見る人。
③「メッセージ」目線で見る人。
……の3つです。
①の人には、「家族の距離感」を売る必要があります。
ここでは、台詞や“色使い(軽くセピア)”で「いかに信頼・尊重し合っている温かい家族か?」を丁寧に書きます。
②の人は、このシーンが、ラストシーンの伏線であったことが分かった瞬間に快楽を覚えます。
ここでは、謎解きのように作品を見る人もいて、そういう人達に「俺は読めてたよ」と言わせてあげることも大事で、2割ぐらいの人には伏線だということがバレるように(ヒントを差し込みながら)伏線を張った方が効果的です。
そして、作品のリピート率やギフト率を上げる為には、なんといっても③を押さえておくことが大事です。
このシーンは、劇中で唯一、ブルーノ(父親)がルビッチを叱るシーンです。
ブルーノは失敗したことを叱るのではなく、挑戦しなかったことを叱ります。
そしてブルーノは、挑戦した先の失敗は全力で受け止めます。
今、教育(子育て&新人育成)に求められているのは、この姿勢で、全てを受け止めるスタンバイをした上で、子供や新人に挑戦させる(やらせる)ことです。
僕が新入社員で、“新入社員に挑戦させない上司”のもとで働いていたら、「この映画、超面白いので、是非、観てください」と、「面白い」を大義名分に、上司にメッセージを贈ります。
本音は「ちょっとは見習えよ」です。
その瞬間、作品のギフト率が上がる。
『メッセージ』には、「お客さんを鼓舞する役割」と、「お客さんの代弁をしてくれる役割」という二つの役割があって、普遍的な物語を書くのならば、ここは安く見積もってはいけません。
素人評論家は、②を大きく求めますが、②の割合を増やせば増やすほど、サプライズ性が増し、「一度見れば満足」な作品になってしまいます。
本音を言っちゃうと、お客さんや評論家をブッちぎるのはメチャクチャ簡単です。
西野が舞台や映画を観て、「こんな脚本でよけらば20分で書ける」という感想を持つのは、大体その類の本です。
もし、タイミングが合えば、舞台『グッドコマーシャル』や『テイラーバートン』の再演を観てください。
一秒も先が読めずに、泡を吹かれると思います。
だけど、それだけでは世界は獲れない。
更にテクニカルな話をすると、『映画 えんとつ町の』で、主人公達のトーンが最も落ちるシーンでは、台詞を一切入れておりません。
トーンが落ちているシーンを台詞で乗りきろうとすると、当然、主人公達の声のボリュームが落ちるわけです。……が、その場面で劇場客席の赤ちゃんが泣いちゃったら総崩れです。
『映画 えんとつ町のプペル』では、赤ちゃんが泣いちゃったら丸ごと潰れてしまう繊細なシーンで、もっとも大きな音楽を鳴らしています。
脚本は、紙の上に書くものではなく、劇場を支配するものなので、もちろん“大切なシーンで赤ちゃんが泣いてしまうこと”も織り込んでおく必要があります。
赤ちゃんが泣いても目立たないように大きな音楽を鳴らすわけですね。
ここの配慮ができていないと、「ファミリーで観に行く作品」にはなりません。
一部のコアファンを満足させることはできても、世界は獲れない。
あまり外で語ることはしませんが、脚本執筆には、今のような配慮が数百とあります。
また、どこかで語りますね(^o^)
たまには、こんな回があってもいいですよね?
今日は『映画 えんとつ町のプペル』の脚本の裏話でした。
現場からは以上でーす。
【追伸】
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