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2021年06月09日のエンタメ研究所の過去記事

6月9日(水) ※6月11日以降は『いいね』を押さないでください。
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おはようございます。
海外の有名サッカー選手がUFOを目撃して、「あれは100億%、ドローンじゃなかったっ!」というコメントを残していて、UFOやドローンよりも「100億%」という言葉に気持ちが持っていかれたキングコング西野です。
さて。
今日は『現代の【利益】と【損失】を知った上で、【利益】と【損失】を天秤にかけることが大切だよね』というテーマでお話ししたいと思います。
あらゆる情報が共有され、
あらゆるサービスのクオリティーが上がり、
あらゆるサービスのクオリティー(価格も含む)が均一化され、
「クオリティー」や「機能」で差別化が図りにくい時代となりました。
これを「クオリティーはどうでもいい」という誤った解釈をしてしまう方が多くいらっしゃいますが、そういうことではなくて(マジで!)……「クオリティーは最低限持ち合わせておくもの」ということです。
感覚で言うと「3年前の日本一ぐらいのクオリティー」がゲームに参加する際のドレスコードです。
絵の下手なイラストレーターさんの「私の絵はどうやって売ればいいですかね?」という相談の答えは、「いいから、上手くなれよ」の一択です。
話をするのはそれからです。
そんなことを踏まえていただいて、今日の話です。
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▼ 「目先の売り上げ」よりも「物語」の方が大事だ!
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新入社員の「べえ君」が責任者を務めるコーヒーショップ『CHIMNEY COFFEE』が結構面白いです。
売り上げと照らし合わせてみていくと、経営者の方も、いろいろ参考になる部分があるかもしれません。
『CHIMNEY COFFEE』は、
コーヒーとフィナンシェの味と、
従業員さんの笑顔は超一流で、
「経営力」だけが小学生レベルだということは最初から分かっていました。
これが逆だったら問題です。
どれだけ宣伝上手でも、コーヒーとフィナンシェが美味しくなくて、従業員さんの態度が悪ければ、お客さんを裏切ってしまうことになり、 そこで失った信用はCHIMNEYTOWNが仕掛ける他のサービスにまで及んでしまいます。
『CHIMNEY COFFEE』の場合はそうではありません。
オーナーの勉強不足によって失ってしまう目先の売り上げはどうでもいいので、そんなことよりも、「応援される店」になった方がいいと判断し、右も左も分からない「べえ君」に丸投げしてみました。
彼が最初に仕掛けた施策がなかなかクソで(笑)、「テーブル席に座るには事前予約が必要」というものでした。
渋谷にある『CHIMNEY COFFEE』は、そこまで広いお店じゃなくて、店内のテーブル席数には限りがあります。
そこで、べえ君は「事前予約制」をとったのです。
さて。
「CHIMNEY COFFEEのテーブル席は事前予約制です」と打ち出したわけですが……言葉って切り取られて伝わるじゃないですか?
やはり、
「CHIMNEY COFFEEのテーブル席は事前予約制」
→「CHIMNEY COFFEEは事前予約制」
と伝わり、スタッフが毎日のように「いやいや、違うんです!『テーブル席』は予約が必要なだけで、お店自体(お持ち帰りのお客様)は事前予約など要りません」と毎日アナウンスする始末。
毎日の「いやいや、違うんです!」の説明にスタッフのコストが割かれ続けているわけですから、お店としては大きな損失です。
経営者さんなら百人が百人この展開になることは始める前から分かると思いますが……知識も筋力も無いのに変化球を投げようとするのが「素人」という生き物です。
素人の脳内の計算式はいつも「自分の斬新なアイデア>先人達のアップデート」です。
先人達が数万回の失敗と改善を繰り返して、お店の形なんて、ほぼ完成されているのに、「何か新しいこと」をしたがるのが素人です。
ものすごくバカなんだと思います。
「テーブル席を事前予約制にする」という不思議な施策を始めて聴いた時に、失敗することは100%分かっていましたが(※たぶん当時のYouTubeの生配信で言ってたww)、しかし、それを止めることはしませんでした。
「べえ君」や彼のチームの皆が、失敗して改善して、また失敗して悩む……その成長過程をそのままお客様にお見せして、「応援される店」になった方が、機能差別化を図れなくなった時代を生きていけるからです。
サービスを買ってくれるお客さんを「顧客」と呼び、
サービス提供者を応援してくれるお客さんを「ファン」と呼ぶのならば、
今の時代は、たとえ売り上げが落ちようと「ファン」を抱えておくことが非常に重要で、
ここの理解がない株主を抱えている株式会社さんは、なかなか大変です。
そんなこんなで、いろいろありましたが……CHIMNEY COFFEEは最近「テーブル席の事前予約制」を撤廃したそうです。
一歩前に進んだように言っていますが、「普通の店」になっただけです(笑)
しかし、
失敗と改善をして、ようやく「普通の店」になれたことがメチャクチャ良いと僕は思っていて、 そこに物語があるからCHIMNEY COFFEEにはすでにファンが生まれています。
CHIMNEY COFFEEには「そうだよ!なんで、最初から、それをやらなかったんだよ(笑)。バカのクセに、カッコつけて変化球を投げてんじゃねぇよ(笑)」と笑い飛ばしてくださるお客様がいます。
「べえ君はバカだけど、コーヒーとフィナンシェは美味しいね」と言ってくださるお客様がいます。
僕もその一人です。
いいお店だと思います。
さて。
お店が一歩前に進んだので、「テーブル席を事前予約制にする」という判断のどこが間違っていたのか?を整理しておきます。
ここから先は、そこそこ汎用性のある話だと思うので、耳を傾けていただけると幸いです。
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▼ 未来の「損失」は見えにくい
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テーブル席を事前予約制にした狙いは分かります。
予約制にすることで、事前に準備できることもありますし、確定した売り上げもあるので精神的にチョット安心です。
しかし、それによって「え? CHIMNEY COFFFEって予約しないと行けないんじゃないの?」という人が出てきて、一人一人に「いやいや違うんです!テーブル席が予約というだけで…」と説明し続けるコストが発生してしまった。
さらに考えなきゃいけないことがあります。
それは、「え? CHIMNEY COFFFEって予約しないと行けないんじゃないの?」と声を上げてくださったお客様は、「CHIMNEY COFFFEは事前予約制だと“思っている”お客様」の極々一部でしかないということ。
大半の「CHIMNEY COFFFEは事前予約制だと“思っている”お客様」は何も言わず、店から離れていってしまいました。
この時、経営者がやらなきゃいけないのは「見える利益」と「見えない損失」を天秤にかけることです。
テーブル席を事前予約制にしたことで、売り上げの見込みが出て「やったやった」となったかもしれませんが……その裏では、その売り上げ以上の損失を被っています。
これを知る為には、「見えない損失」を割り出す必要があります。
ある判断をする時は、「その判断によって得られるもの」だけに目を向けるのではなくて、
「その判断によって失うもの」を全てリストアップする必要があります。
厄介なことに、「得られるもの」は【売り上げ】や【集客数】といった形で可視化されますが、「実は失っているもの」は目に見えないので、余計に注意が必要です。
ぶっちゃけた話……お客さんが店に来てくださった時に、テーブル席が埋まっていれば「ああ、今日は混んでるな」となるだけなんです。
店の前にお客さんが並んでいたら「まぁ、今日は日曜日だしね」となるだけなんです。
「テーブル席の事前予約」なんで、アナウンスしなくていいんです。
“実は予約できること”を常連客がコッソリ知っておけばいいだけの話なので。
「飲食店」って基本、そうじゃないですか(笑)
友達と店に行くときに、席が埋まっていたら嫌なので、事前に電話で席を予約しますが、
店の看板には『事前予約制です!』とはわざわざ打ち出していない。
そんなものを大々的に打ち出して「会員制の店」と勘違いされてしまう損失の方が大きいからです。
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話をまとめます
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『損して得取れ』という言葉があるぐらいですから、「見える利益」と「見えない損失」を天秤にかけることの重要性はこれまでも散々議論されてきたと思います。
ただ、近年、少し厄介なのは、「損失が複雑化している」ということ。
「得られるもの」と「失うもの」が、どちらも「売り上げ」や「集客数」だったら、まだ分かりやすいのですが、
機能で差別化を図れなくなった時代は、そこに「応援シロ」や「ほっとけない力」みたいなものが加わってきます。
「【売り上げ】を獲得しても【ほっとけない力】を失っていたら、トータルでみた時にマイナス」ということがありえます。
『いきなりステーキ』さんなんかは、この落とし穴にハマった印象です。
現代の利益は何か?
現代の損失は何か?
それを整理した上で、「見える利益」と「見えない損失」を天秤にかけることが大切なのだと思います。
べえ君の悪口を言い倒してしまったので、お詫びに『CHIMNEY COFFEE』の宣伝をしておきます。
僕も毎朝飲んでいるのですが、『CHIMNEY COFFEE』のカフェオレボトルが死ぬほど美味しいです。冗談抜きで美味しいです。
是非、一度、試してみてください。
現場からは以上で〜す。
 
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