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2021年07月21日のエンタメ研究所の過去記事

7月21日(水) ※7月23日以降は『いいね』を押さないでください。
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出国する際の持ち物検査場で、「悪いヤツが僕を陥れようとして、覚醒剤を僕の鞄の中にコッソリと入れていたらどうしよう?」という心配を毎回しているキングコング西野です。
飛行機の都合で今日は記事の更新が遅れてすみません。
長いアメリカ旅を終えて、ただいま、日本に戻ってまいりました。
本当は、あと1週間ほどアメリカに滞在する予定だったのですが、アメリカを発つ際のP C R検査に引っかかってしまうと、その分、帰国が遅れてしまうので(仕事に間に合わなくなるので)、念の為、帰国を1週間早めました。
さて。
新作の制作とラスベガスのエンタメにドップリと浸かった今回のアメリカ旅は、自分が置かれている環境をあらためて見直す良いキッカケとなりました。
今日の記事は、一人の日本人表現者として、「今、どんな問題を抱えていて、何をしなければいけないのか?」を整理&共有したいと思います。
ちょっと長くなるかもしれませんし、数日前に書いた記事を再び“なぞる”場面も出てきそうですが……状況整理の為の文章ですので、ご容赦ください。
テーマは、『批評に走る日本に水をかける』です。
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▼ 1店舗経営か、多店舗展開か?
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2〜3年ほど前に、スナック『CANDY』を運営する(株)スナックを作って、会社ごと後輩のホームレス小谷君にあげました。
今は、ただの常連客です。
(スナックCANDY)→https://salon.jp/candy
スナックの特異な点は、「『従業員の優秀さ』と『店の満足度』が比例関係にない」というところにあります。
「テキパキ働くママより」も、「程よいタイミングで酔い潰れてくれるママ」の方が人気だったりもしますし、
「今日はママの機嫌が悪い」がネタとなり、お客さんの満足度を上げる場合もあります。
「サービス提供者の機嫌にムラがある」なんて絶対にダメじゃん(笑)
スナックでは、「お酒」や「料理」が店のセールスポイント(集客装置)になっているケースは珍しく、「ママ」や、あるいは「お客さん」が、お客さんを呼んでいることがほとんどです。
なんとなくイメージできると思いますが、それらは、マニュアルで生み出せるものではありません。
つまり、コピーできないんです。
スナックに「チェーン店」が存在しない理由は、まさにそれです。
スナック『CANDY』は全国に20店舗以上ありますが、新店舗をオープンする際にいつも議題に上がるのは「ママはどんな人?」です。
「良いママ」がいないとスナックは成り立ちません。
スナックは、“属人性が高すぎるサービス”なんです。
おかげで店舗を拡大することはできませんが、
その分、
「特定のコミュニティー向けにカスタマイズして、深く刺せる」という強みがあります。
一方、
今さら説明するまでもありませんが、“拡大を見越した店”は「コピーできる」が前提にあります。
そこには練りに練られたマニュアルがあり、マニュアル通りに動けば、店が回るようになっています。 
マクドナルドやスタバをイメージしていただけると分かりやすいですね。
このへんの話は、マクドナルドの『ファウンダー』という映画がクソ味噌に面白いので、お時間ある時に、是非ご覧ください。
『究極のマニュアル(究極のパッケージ)』を手にした店は、「あとは、コピーしていくだけ(どこに新店舗を出すか?)」という無双モードに突入します。
店舗を増やせば、店舗数に概ね比例する形で、お客さんや売り上げが増えるわけですから、拡大を見越した店が追求するのは一にも二にも『究極のマニュアル』です。
店舗経営者には「一店舗で深く濃く戦うか、バランス良く個性を残しつつ多店舗展開するか?」という選択が求められています。
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▼ 映画もそう
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『映画(作品)』を、「お店」として考えてみると、もろもろの整理が進むかもしれません。
「映画を海外に売り込む」が、あまり日常的な言葉ではないので、僕らは海外に映画を売り込む際の建て付けをあまり知りませんが……基本は、各国の配給会社に「その国で、その映画を流せる権利」を売ります。
その後、観客動員数によって、プラスαの売り上げがあったりするのですが(そこは契約次第)、基本は、「あなたの国では、あなたがこの作品で商売していいっすよ」という権利を売っています。
なので、(ちょっと踏み込んだ話をすると)たとえば、「作品を上映できる権利」が平均2000万円で売れるとしたら、「2000万円×国数」が国外の基本の売り上げになります。
「40カ国で上映される」となると『8億円』がベースの売り上げで、そこから観客動員数に応じてプラスαがあったりします。
もちろん、実際はこんなに単純な話ではありませんが、「海外に映画を売る」をなんとなくイメージしていただく為に、あえて単純にしています。
要するに、映画もお店同様、「そもそもコピーできるマニュアルか否か?」が拡大範囲を決めるわけですね。
映画制作者には「日本店だけで戦うか、数カ国に店を出して戦うか?」という選択が常に迫られています。
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▼ 大きな大きな分断
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この時、少し厄介なのは、「『日本店』は思っている以上に大きい」ということです。
スナックだと、せいぜい10人ぐらいしか入れませんが、映画の日本店は、ごく稀に「2000万人」が入る場合があります。
僕らはメルカトル図法で「国の大きさ」を認識しがちですが、どっこい、日本って、めちゃくちゃデカイんです。
中国やインドで麻痺しがちですが、世界的に見て、日本は人口がとにかく多い。
当然、「それならば多店舗展開(海外進出)はオマケとして捉えておいて、勝手知りたる日本店に照準を絞って商売した方がいいんじゃね?」と考える人は出てきます。
僕らの先輩方の世代です。
ただ、いろんなところで言われているとおり、大国「日本」は今、人口がグイグイ減っています。
そして、高齢化がグイグイ進んでいます。
日本のボリュームゾーンは今、65才~74才&40才~54才です。
日本の最大の不幸は、このタイミング(高齢化が進んだタイミング)で「共感を集めたもん勝ち」の時代を迎えたでしょう。
ボリュームゾーンが20代〜30代の国と、ボリュームゾーンが50代〜70代の国では、「共感されるネタ」に違いが出るのは当然で、後者は、「新しいテクノロジー」や「新しい選択肢」、あるいは「挑戦」に共感が集まりにくい。
自分の人生にあまり関係のない事柄だからです。
「今からブロックチェーンを学んで、何に使うんだ?」といったところ。
一方、タレントの不倫の話題は“今の知識のまま”参加できるので、ボリュームゾーンと同じ考えを言ってくれるコメンテーターには「そうだ!そうだ!」と多くの共感(支持)が集まります。
結果、日本のスタープレイヤーに用意される一番大きな席は「コメンテーター席」になる。
「未来の可能性を提案するインセンティブ(取り分)」よりも、「誰でも参加できる私刑のインセンティブ」の方が大きいのが、高齢化を迎えた今の日本です。
今の日本だと、創作するよりも、批評した方が取り分が大きいんです。
今回のラスベガスでは、数名の日本人と会いましたが(サロンメンバーさん以外にも)、現地で活躍されている方の中には「日本人コメンテーター」が一人もいませんでした。
お一方、有名な日本人批評家さんと会いましたが、いわゆるお茶の間のコメンテーターではなく、ブロードウェイミュージカルのプレゼンターとして活躍されている方(次の才能を引き上げることを生業とされている方)で、彼もまた創作者です。
日本人コメンテーターが食える土壌(取り分)は日本にはありますが、
日本人パフォーマーが食える土壌(取り分)が今の日本にはあまりありません。
その上で、日本の人口は減っています。
「輸出品の開発を諦めつつある国の人口(お客さん)が減っている」という状況です。
日本のエンタメの未来を考えると、このまま「コメンテーターになった方がオイシイし」という状況を放置しておくのは極めて危険だということを今回の旅で痛感しました。
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▼ もう一つの「無視できない問題」
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もう一つ厄介な問題は、「日本国内における【海外展開対応型パフォーマンス】のインセンティブが低すぎる」という点です。
歌や漫才やコントといった国内向けコンテンツは、頑張れば食べていける土壌がありますが、マジックや大道芸で食べていくのは、日本だと、かなり厳しかったりします。
そりゃ、この国で生まれ育つと「エンタメをやるなら、歌や漫才やコントでしょ!」となるわけですが、しかしながら、「輸出」できるコンテンツは、日本だとマイナーに分類されてしまうような「マジック」や「大道芸」だったりします。
先日、「サーカスを作りたいな」という記事を書きましたが、伊達や酔狂じゃなく、マジシャンや大道芸人が十分食べていける環境(憧れの対象となる環境)を作らないと、日本のエンタメはなかなか厳しくなってくるだろうなぁと思っています。
日本のクリエイターやパフォーマーインセンティブの再設計を急がなければなりません。
どれだけ叫んだところで何も変わらないと思っていて、「結果でねじ伏せる」が最大の特効薬だと思っています。
「批評(高齢者の共感)に走らず、国内マーケットだけに走らず、ずっと作っている西野が、結局一番大きな取り分を持っていったじゃん」を知らしめることが、僕が日本のエンタメの未来の為にできる唯一のことなんだろうなぁと思っています。
日本に帰ってきました。
今日から2週間の隔離生活です。
誰にも会わずに作品を作り続けられるので、望むところです。
気を引き締めていきます。よろ。
現場からは以上で〜す。
 
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