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2020年09月22日のエンタメ研究所の過去記事

9月22日(火) ※9月24日以降は『いいね』を押さないでください。
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おはようございます。
お願いですから冒頭のツカミの挨拶を辞めさせてくださいよっ!そんなに毎日毎日挨拶のネタなんてないですよっ!ここに一番時間がかかってるんですよっ!…のキングコング西野です。
そういえば昔、梶原君から突然電話がかかってきて、「……俺、数年前から漫才の冒頭でギャグっぽく『しゃかりき頑張ります!』って言ってるんやけど……あれ、辞めてもええかな?」と相談されて、「知らねーよ」と言って電話を切りました。
さて。
今日は「今あらためて『信じる』を考える」という変なテーマでお話ししたいと思います。
テーマはヘンテコリンですが、今、全てのサービス提供者さんが向き合わなきゃいけない問題だと思うので、ご自身のサービスと照らし合わせながら話を聞いていただけると嬉しいです。
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▼ 「お金」という共同幻想
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僕はミヒャエル・エンデという作家が好きなのですが、彼が晩年、問い続けたのは「お金って何だろう?」という問題です。
自由を追い求めると、必ず「お金」の壁にブチ当たります。
人間が生活の自由度を上げる為に開発した「お金」によって、人間の生活は縛られています。
「お金」なんて、もともと存在しなかったものなのに、手元から無くなった瞬間に、絶望し、命を絶つ人もいます。
なんだか難しい話になっていきそうなので、ここらで止めておきますが……どうやら「お金」というものが、人類にとって、ものすごい発明であったことは間違いなさそうです。
ミヒャエル・エンデにハマると、まもなく、シルビオ・ゲゼルというドイツの経済学者に辿り着きます。
立派な髭をたくわえたオジサンです。
ちなみに、このあたりが、『えんとつ町のプペル』の元ネタになっているので、お時間ある方は是非、「シルビオ・ゲゼル」で検索していただきたいです。
彼の活動を追うと「お金の正体」がよく見えています。
「お金」というのは実に不思議な存在です。
昔は、あの紙切れを「金匠(銀行みたいなとこ)」に持っていったら、実際に『金』と交換してくれたらしいのですが、今は、交換してくれません。
本当の本当の本当に、「ただの紙切れ」でしかないんです。
国が、「この紙切れには、1万円の価値があるから!マジで!信じて!」と懇願し、皆が真に受けて信じちゃったから、あの紙切れに『1万円』の価値が発生しています。
なもんで、信じられなくなったら、1万円札は、ウンコが付いたトイレットペーパーと何ら変わりません。
事実、ジャングルの奥地の部族に1万円札を渡したら、3回に1回はウンコ拭きに使われるそうです。
あの紙切れを「お金」とするには、皆に「これは、ただの紙切れじゃないぞ!お金だぞ!価値があるぞ!」を信じこませる為の条件が必要になってきます。
まずは、『保存ができる』『交換ができる』『価値のモノサシになる』の機能が搭載されていないといけません。
すぐに腐ってしまうサンマを持ってきて「これは、お金だ!一万円魚だ!」と言っても、誰も信じてくれないんですね。
次に、「数量」の問題もあります。
1万円札を刷りまくって、バラ撒きすぎてしまって、その辺に一万円札が落ちている状態になってしまったら、誰もその一万円札に「1万円の価値がある」とは思わなくなる。
ここまでの話を整理すると……
・ただの紙切れであろうが、皆が信じたら「一万円」になる
・しかし、皆に信じてもらうには、いくつか条件がある
といったところです。
そんなこんなで、今日の本題です。
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▼ イチゴをどう売るか?
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現在、全てのサービス提供者が共通して抱えている問題は、以下の二つ。
①そもそも人口が減ってるよね
②機能や品質で差別化を図ることが難しくなってきたよね
もう少し踏み込むと、結論、「薄利多売、低価格&高品質の追及はそろそろ限界じゃね?」という答えに至ります。
つまり、『ブランド』にならないといけないわけですね。
『ブランド』を、もう少し下品に言語化すると「『価値がある』と皆に信じ込ませることに成功したモノ」です。
『ブランド』は、お金とよく似ていて、「共同幻想」です。
昨日、三重県でイチゴ農園『風農園』を運営しているサロンメンバーさんと喋っていて、彼が実にユニークで、実に多くのサービス提供者のヒントとなるような課題を抱えていることを知りました。
『風農園』のイチゴは大変な評判で、毎年、作った分は全て完売するのですが、売り上げは赤字だそうです(笑)
その中でもオーナーさんが特にこだわって作っておられるのが『ICHIGOLOGY』という一粒1000円の大きな大きなイチゴ。
この一粒を作る為に(栄養を集中させる為に)、他のイチゴをたくさん切り落とすので、毎年、採れる数が決まっていて、だいたい900粒だそうです。
それを6個入り6000円で販売していて、毎年
『ICHIGOLOGY』150箱はすぐに完売。
「だったら、値上げすればいいじゃないか?」も思うじゃないですか?
たぶん、難しいと思います。
もっと言うと、『ICHIGOLOGY』という名前じゃ難しい。
紙切れをお金にする時に「お金にする為の条件」があったように、商品をブランド品にする時には「ブランド品にする為の条件」があって、そこをキチンと踏んで、「価値がある」と信じ込ませなきゃいけない。
僕からオーナーさんにお伝えしたのは、以下の5つ。
①商品名を「漢字&ひらがな」にして、パッケージ&販売ページのデザインを一新して、高級感を出してください。その際、「暇なデザイナーさん」には決して頼まず、「忙しいデザイナーさん」に頼んでください。
②6個6000円じゃなくて、3個1万円にしてください。そうすれば、「あまり数が採れない」ということが強調されるので。
③「1箱」ではなく「1本」と呼んで、「1本=1万円」という認知を広げてください。そうすれば、メルカリで転売されやすくなるので。
④採れるのは年間に900粒…つまり、「年間に300本しか販売しない」ということを前面に押し出してください。
売れるからといって、畑を拡大して、採れる数を増やさないでください。
⑤販売ページで、残りの本数を出してください。
「品質」の話なんて1ミリもしていないんです。
全て「『価値がある』と信じこませるには、どこを押さえないといけないか?」という話ばかり。
ちなみに、ホームレス小谷が写真展をする時に、「すべて一点モノにして、一点10万円で販売しよう」持ちかけました。
今時、写真に値段を付けるのは難しすぎるかと思いきや、最初の二点を僕が買ったら、三点目から普通に10万円で売れました。
(※売り上げは全額寄付&ときどき小谷と寿司代)
この場合も、「小谷の写真には価値がある」と皆が信じたから、小谷の写真に1枚10万円の値が付いたわけですね。
ちなみに、一点に一億円の値がついた日本人書家「憲真(けんしん)」さんには、『生涯に100作品しか書かない』という明確なルールがあります。
作品内容は勿論のこと「数」でも価値を創造してあるわけですね。
日本人は、こういった価値創造(ブランド作り)が超絶ヘタクソだと思っていて、それこそ、「原価500円」のものを「3000円」で売っている人を指して「宗教かよ」みたいな批判をよく見かけるじゃないですか?
おそらく日本は「宗教=オウム真理教」であり、「宗教=信者をだまくらかせて悪いことをする団体」であり、「宗教=ホワイトハット」になっていると思うのですが、「お金」も「ブランド」も「矢沢永吉」も宗教で、人口減少&品質のコモディティー化が進む中、商品の宗教化を脊髄反射的に否定してしまうノリを持ち込んでしまうと、破滅の道しか待っていません。
「宗教」という言葉を聞いて、「うっ…」となっている場合じゃねぇという話です。
僕らは「人間は、どの条件が揃った時に、そこに価値を信じるのか?」ということを、様々な宗教から学ぶ時期に差し掛かっています。
『風農園』の物語はビフォアアフターでお見せした方がいいと思うので、6個6000円の『ICHIGOLOGY』がどのように変わって、それによって、どのような結果が出たかを、またサロン内で共有したいと思います。
引き続き宜しくお願い致します。
現場からは以上でーす。
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